洛菜庵

古都の郊外、四季折々の散歩道です

桃の花、月映えのような少女…

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 桃の花が咲くときに、ある無名の作家を思い出します。そのエッセイに、桃花は「艶なる梅や桜ほどに人の心を乱さない月映えのような少女の風情」と表しました。 

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「北へ」という歌がある。昭和五十二(1977)年石坂まさをさんの詩になる。小林旭さんが歌った。恋と訣別した心ならずもの失意を抱いて男がひとり、名も知れぬ町へ流れてくる北帰行の哀調だ。歌い出しに『名もない港に桃の花は咲けど』の詩がある。僕の友人が「なぜ桃なのかよ。桜でもいいじゃないか。梅や木蓮でもいい」と言うのだ。ここは桃でないと駄目だ、と僕は主張した。桃の花は、梅と桜の耽美なスターにはさまれていつも人の心をひくのに一歩出遅れてしまう。(中略)

桃の花、に決めるまでに石坂さんは、煙草を三本吸われたと思う。コーヒーを二杯のまれた、と僕は思っている。

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(長岡京市・一里塚バス停付近で、撮影日=2007.3.31)